「TOP I 2030」では、戦略の二本柱を実現するための具体策として、「創薬」「開発」「製薬」「Value Delivery」の各バリューチェーンとそれを支える「成長基盤」を合わせた「5つの改革」を掲げています。
トップイノベーター像実現に向けた5つの改革
1. 創薬改革
創薬においては、R&D プリンシプル*1に基づく創薬の追求に加え、オープンイノベーション強化による独自の技術確立・アウトプットを創出していきます。
Technology-Driven創薬
中外製薬は、従来、創薬の中心であった低分子に加え、世界に先駆けてバイオ医薬品に取り組むことで、それまでできないと思われたことを実現し、患者さんにとって価値の高い薬剤を提供することに成功してきました。私たちは当社ならではの考え・技術に基づいた創薬にこだわります。これまで標的にできないと思われてきた分子を標的にする。現状技術では実現困難な作用メカニズムを実現する創薬を行う。その一つの例として中分子創薬への挑戦が挙げられます。競争優位性を獲得・維持するために、技術開発に力を入れ続けます。未解決な病気のアンメット・メディカルニーズ*2に応えるため、抗体・低分子・中分子を始めとした既存モダリティに加え、新規モダリティにおいても技術の強化・構築に挑戦し、治癒・早期介入・予防につながる創薬を追求し、患者さんのQOL向上に寄与して参ります。
Quality-Centric創薬
独自のサイエンス力と最新の技術を駆使して、有効性、安全性、DMPK*3、物性などの点で、妥協することなく、その時点で我々の技術で到達できる最高品質の開発候補分子を目指します。この姿勢を貫くことにより、より有効性と安全性に優れ、長く患者さんに使用していただける医薬品を開発できると考えます。同時に、臨床開発における高い成功確率を維持していきます。
オープンイノベーション
私たちには国内アカデミアとのコラボレーションによって多くの医薬品を創製してきた歴史があります。その枠組みを、国内外のアカデミアやスタートアップまで広げる活動を開始しています。また、必要に応じて技術開発についても外部連携も行っていきます。2024年1月からは米国を拠点とするコーポレートベンチャーキャピタルとしてChugai Venture Fund(CVF)も活動を開始しました。自社単独での創薬にこだわるのではなく、外部の技術や標的をより積極的に探索し、自社の強みと融合させることで、創薬機会の拡大を目指します。
2. 開発改革
特に早期開発においては、Go/No-Go判断力強化・早期のプロジェクト価値最大化とともに、オペレーションモデルの継続的な変革により価値創出と生産性向上の両方を追求していきます。
臨床開発力とヒト予測力の融合による適切・迅速なGo/No-Go判断
「TOP I 2030」への取り組みが進むにつれ、臨床へ移行するプロジェクトが増加していきます。サイエンスへのこだわりを維持しつつ、各プロジェクトの価値を徹底的に追求していきます。同時に、研究成果が医薬品として実用化できるかどうかを迅速かつ適切に判断する能力を身につけ、より効率的な医薬品開発を目指します。ヒト予測*4による精緻な生体反応の理解と社内外のインサイトを活用し、確度の高いGo/No-Go基準を開発計画に反映し、実行していきます。これにより、プロジェクトの価値をより早期に見極め、プロジェクトに応じた資源配分を行うことで、適正なリソースの配分を実現します。
早期臨床試験からの、これまでに無い付加価値の創発
非臨床・トランスレーショナルリサーチ等の自ら創出した科学的エビデンスにより、早期に開発品の候補疾患を特定します。適切なGo/No-Go判断により医薬品として実用化できる可能性が高いと判断された時点で、複数の適応症で同時開発を進め、プロジェクト全体の価値の早期最大化を目指します。また、より早期の段階からTrue endpoint*5の実証に取り組み、後期開発に繋げることで患者さんへの提供価値を最大化します。
オペレーションモデル変革
後期開発においては、デジタル技術の積極的な活用によるモニタリング・管理業務の効率化はもちろんのこと、RWDの利活用など臨床試験のあり方そのものを見つめ直すことで、業界をリードする新規価値の創出と更なる生産性向上にも取り組んでいきます。また、ロシュ社との協働においてはスピードに加え、科学的視点からより踏み込んだ協働(開発戦略や試験計画への提言)を行うことで成功確率の向上に寄与し、グローバルにおける製品価値の最大化に貢献していきます。
*4 ヒトの身体の中での薬の動態や生体反応をモデリング&シミュレーションすること
*5 患者さんのQOL向上に寄与する真の価値
3. 製薬改革
創薬アイディアを医薬品として患者さんに届けるための世界水準の技術を追求し、品質/スピード/コストの全ての面で高い競争力を有する製薬機能を実現します。
製薬での開発においては、R&Dアウトプットの倍増に合わせて、技術レベル・開発スピードの両面から世界最高水準を追求していきます。生産においては、デジタルやロボティクス活用を含めた生産技術力の強化による効率化と、デュアルサイト戦略遂行により安定供給とグローバル水準の品質を追求し、頑健かつ競争力のある供給体制を構築します。
世界水準の技術の追求
中外製薬が取り組んでいく開発品は医薬品として形にするには、難易度が高い化合物ばかりです。だからこそ私たち中外製薬の製薬機能のレベルを上げていくことに大きな価値があります。中分子では、創薬との連携を今まで以上に強化して、高活性かつ薬剤化することの難易度が極めて高い化合物の原薬・製剤・分析での技術を確立し、生産体制を整えていきます。次に当社の強みである抗体分野では、抗体エンジニアリング技術の進化に対応して、さらなる技術深耕に取り組むことで、臨床開発品の選定から治験申請までの期間を短縮し、開発のスピードアップを実現します。上記の実現に向けて、必要な設備投資にもリスクをとって取り組んでいきます。
頑健かつ競争力のある供給体制の構築
災害や地政学リスクが高まる中、将来にわたって製薬企業の使命である高品質な医薬品を安定供給していくためには、社内の生産技術力を強化するとともに、原材料サプライヤやCMO*6といった社外パートナーとの協働により、頑健で競争力のある供給体制を構築していく必要があります。スマートファクトリーを見据えたデジタルやロボティクスの活用を含めて生産技術力を強化し、生産性の更なる向上につなげていきます。また上市後CMOを含む複数の工場からの供給を可能とするデュアルサイト戦略を基本とし、安定供給とグローバル水準の品質を追求していきます。
*6 医薬品製造受託機関(Contract Manufacturing Organization:CMO)
4. Value Delivery改革
Value Delivery機能ではこれまで以上に、「患者中心の最適な治療選択に貢献する迅速なエビデンス創出」と、「革新的な顧客エンゲージメントモデル確立による、高度な価値提供」を追求します。また、その取り組みにあたっては、デジタルの活用などに取り組むことで、高い生産性を実現していきます。
Personalized Medical & Safety Careの実現
1つ目の取り組みは、患者さんに応じた最適な治療選択が可能となるエビデンスの創出です。
ロシュ社やアカデミアとの協働を通じた質の高い臨床研究および製造販売後調査等を企画し、価値の高いエビデンスを市販後のより早い段階で提供することを目指します。加えて安全性の観点からも、非臨床・トランスレーショナルリサーチ等の知見も活用し、実臨床における副作用のヒトリスクの予測および重篤化を回避する活動など、患者さん個々に寄り添った価値提供の取り組みを進化させます。
新顧客エンゲージメントモデル確立
2つ目は、医師・薬剤師・看護師のみならずソーシャルワーカーや行政を含めたあらゆる顧客(ステークホルダー)への新たな情報提供体制の進化です。
COVID-19や働き方改革にともない顧客との接点に劇的な変化が起こっている環境下において、リアル・リモート・デジタルを組み合わせたマルチチャネル戦略の重要性が増しています。患者さん同様、顧客個々に最適なアプローチを選択できる体制が必要不可欠であり、今後はさらに多様化する顧客ニーズを敏感に捉え、それに対応した体制を柔軟に構築していきます。
資源シフト・デジタル活用
3つ目は、資源シフトとデジタル活用です。
Value Delivery機能として優先的に資源投入すべき業務の洗い出し、成長・新規領域への資源シフトをさらに推し進めます。また、それを実現するために、成熟品を中心とした第3者への譲渡など、スリム化も継続して検討していきます。バックオフィス機能においてはデジタル活用・アウトソーシング・業務集約など、これまでの慣習・プロセスに捉われない抜本的な変革を進めていきます。
5. 成長基盤改革
これまで説明してきた各機能別の4つの改革を実現する成長基盤の強化のため、5つの領域における課題に継続的に取り組んでいきます。